DBS手術の実際
どのように手術を行うので
しょうか?
DBS手術で最も重要なポイントのひとつは、脳の深部にある治療標的へ刺激電極(リード)を正確かつ安全に留置することです。
パーキンソン病では、主に「視床下核(STN)」や「淡蒼球内節(GPi)」が刺激の標的となります。当院では主に視床下核を標的としたSTN-DBSを行っています。
視床下核は、脳の深部に存在する非常に小さな、アズキ豆程度の大きさの神経核です。そのため、MRIなどの画像をもとに、刺激電極を留置する位置と、そこまでの安全な挿入経路を事前に詳しく計画します。
目的の場所へ正確に電極を
留置するための手術機器
DBS手術では、頭部に「定位脳手術装置」と呼ばれる特殊な装置を装着し、脳内の位置を三次元的に正確に把握しながら手術を行います。
まずMRIなどの画像を用いて、患者さん一人ひとりの脳の構造を確認し、刺激する位置と挿入経路を決定します。定位脳手術装置を用いて、画像で確認した標的へ電極を正確に導きます。
さらに手術中には、脳内の神経細胞の活動を記録する「微小電極記録」などの生理学的評価を行い、画像から得られた情報と組み合わせながら、目的とする神経核の位置を確認します。
近年では、MRIやCTなどの画像技術に加えて、高性能な手術計画用ソフトウェアが利用できるようになり、患者さんごとの脳の構造や血管の位置を確認しながら、より精密な手術計画を立てることが可能になっています。
DBS手術の流れ
以下は、当院で行うDBS手術の主な流れです。患者さんの状態などによって、手術や麻酔の方法が異なる場合があります。
頭部に定位脳手術装置を
装着しますまず定位脳手術装置を頭部に装着し、脳内の位置を三次元的に把握しながら手術を行います。
装置が動かないよう、頭部にピンで固定します。
この際には静脈麻酔と局所麻酔を併用し、患者さんが眠っている間に、痛みを軽減しながら装着します。

MRIまたはCTで、電極の位置と挿入経路を確認します
定位脳手術装置を装着した後、一旦手術室を出て、MRIまたはCTを撮影します。
この時点で患者さんは再び目を覚まし、フレームを装着したまま検査を受けていただきます。
画像をもとに、患者さん一人ひとりの脳の構造を確認し、電極を留置する位置と挿入経路を最終的に決定します。

脳内へ刺激電極(リード)を
留置しますこの部分は局所麻酔で行い、患者さんと会話ができる状態で手術を進めます。
最初に前頭部の頭皮に十分な局所麻酔を行い、約4cmの皮膚切開を行います。次に、専用のドリルを用いて頭蓋骨に直径14mm程度の小さな穴を開けます。
そこから定位脳手術装置を用いて、あらかじめ計画した脳深部の標的へ電極を進めていきます。

手術中には脳内の神経活動を記録しながら、電極を留置する位置を確認します。
脳組織そのものには痛みを感じる神経がありません。ただし、頭皮などには痛みを感じる組織があるため、麻酔を用い、患者さんの状態を確認しながら手術を進めます。
手術中に効果と副作用を確認します
電極の位置を確認したら、「試験刺激」を行います。
実際に電気刺激を行い、手足の動かしやすさ、筋肉のこわばり(筋強剛)、ふるえ(振戦)などがどのように変化するかを確認します。同時に、しびれ、筋肉のつっぱり、言葉の話しにくさなど、刺激による副作用が現れないかも確認します。

この評価は、脳神経外科医と脳神経内科医が協力して行います。
治療効果と副作用を評価し、適した位置を確認したうえで、電極を固定します。
両側に電極を留置する場合には、通常、一方の電極の留置と評価を終えた後、同様の手順でもう一方を留置します。
胸部に刺激装置を植え込み
ます脳内への刺激電極の留置が終了したら、定位フレームを取り外します。
その後、全身麻酔に切り替え、前胸部の皮下に刺激発生装置(IPG:Implantable Pulse Generator)を植え込みます。
脳内の刺激電極と胸部の刺激装置は、頭部から首を通って胸部まで皮下に通した細い導線(延長ケーブル)で接続します。

電極、導線、刺激装置はすべて体内に埋め込まれます。
そのため、手術後に体外へ電線が出た状態で生活することはありません。
手術を終了します
頭部と胸部の傷を閉じ、手術を終了します。
当院では、両側のDBS手術の場合でも、脳内への刺激電極の留置から胸部への刺激装置の植え込みまで(③〜⑥)を含め、手術時間はおおむね3時間程度です。
ただし、患者さんの状態や手術中の検査・評価などによって、手術時間は前後します。
両側のDBS手術では、左右の前頭部と、刺激装置を植え込む前胸部に、それぞれ約4cmの傷ができます。
頭部の傷は、髪が伸びると次第に目立ちにくくなります。
胸部の刺激装置は皮下に埋め込まれるため、体外に露出することはありません。
DBSは精密さが求められる
手術です
DBS手術は、脳を大きく切開したり、広い範囲の脳組織を摘出したりする手術ではありません。一方で、脳の深部に細い電極を正確に留置するため、高い精度が求められます。
また、脳内出血、感染、けいれん、傷や植え込み機器に関連する合併症などが起こる可能性があります。
そのため当院では、詳細な画像による手術計画、生理学的な確認、手術中の試験刺激など、複数の情報を組み合わせ、安全性と正確性を重視して手術を行っています。
DBSは、単に電極を脳に入れて終わる治療ではありません。
患者さん一人ひとりに適した場所へ電極を留置し、
手術後の刺激調整(プログラミング)と薬の調整をしながら、
治療効果を引き出すことを目指します。
DBS治療の合併症と副作用
DBSは、適切な患者さんに行うことで、運動症状や日常生活の質の改善が期待できる治療です。
一方で、手術に伴う合併症や、術後の電気刺激による副作用が生じる可能性があります。
DBSを検討する際には、期待できる効果だけでなく、これらのリスクについても十分に理解したうえで治療を選択することが大切です。
手術に伴う合併症
脳内出血
DBS手術で特に注意が必要な合併症のひとつが「脳内出血」です。
脳の深部にある治療標的まで電極を挿入する際に、脳血管を傷つけて出血が起こることがあります。
出血の場所や程度によっては、手足の麻痺、言語障害、意識障害などが生じ、後遺症が残る可能性があります。
リスクをできる限り低くするため、手術前のMRIなどの画像と手術計画用ソフトウェアを用いて、確認できる血管を避けるように電極の挿入経路を計画します。手術中も、血圧を適切に管理しながら手術を進めます。
感染
DBSでは脳内の電極、皮下の導線、胸部の刺激装置などの医療機器を体内に植え込むため、手術後に創部や植え込んだ機器に感染を起こす可能性があります。
感染を予防するため、手術時の消毒や清潔操作、抗菌薬の使用などの対策を行います。
感染が起こった場合には、抗菌薬だけでは十分に治療できず、刺激装置や電極などの一部または全部を取り除く必要があることもあります。
その場合は、感染が治まったことを確認したうえで、再び機器を植え込む手術が可能かどうかを検討します。
当院で全剃髪をお願いしている理由
当院では、DBS手術を行う際に、頭髪をすべて剃る「全剃髪」をお願いしています。
DBSでは、頭部に電極を植え込み、胸部の刺激装置まで皮下の導線で接続します。当院では、手術を行う範囲を確認しやすくし、消毒や機器の留置などの操作を行う際に毛髪が妨げにならないよう、全剃髪で手術を行っています。
もちろん、髪を剃れば感染を完全に防ぐことができるわけではありません。また、手術方法や感染対策の考え方は施設によって異なり、頭髪を残したままDBS手術を行っている施設もあります。
髪を剃ることに抵抗や不安を感じる方も少なくないと思います。手術そのものと同じくらい気になることかもしれません。手術前には、理由や方法を説明し、不安やご希望を伺ったうえで、準備を進めます。頭髪は術後に再び伸び、頭部の傷は髪に隠れる位置となるよう配慮します。
電極周囲の脳浮腫
手術後、脳内に挿入した電極の周囲に、一時的な「脳浮腫(脳のむくみ)」がみられることがあります。原因は十分に解明されていませんが、多くの場合は症状を伴わず、時間の経過とともに自然に改善します。
一方で、浮腫の程度や場所によっては、まれに一時的に認知機能や物事を計画して進める力(遂行機能)の低下、精神症状などがみられることがあります。症状がある場合には画像検査などで状態を確認し、必要に応じて治療を行います。
その他の手術・機器に関連する合併症
このほか、けいれん、創部の治癒不良などが起こる可能性があります。
長期的には、電極や皮下の導線、刺激装置などの植え込み機器に関連した不具合が生じ、修復や交換のために追加の手術が必要となる場合があります。
電気刺激に伴う副作用
DBSでは、目的とする脳の神経回路に適切な電気刺激を行うことでパーキンソン病の症状を改善します。
刺激の強さや刺激する場所によって、次のような副作用が現れることがあります。
-
言葉が不明瞭になる
(構音障害) -
手足や顔のしびれ
-
筋肉のつっぱりや
不随意な収縮 -
歩行や
バランスへの影響 -
ものが二重に見える
(複視)
これらは、刺激を強くした場合や、刺激が目的とする部位の周囲まで広がることによって生じます。
DBSは、手術後も刺激条件を変更できます。副作用が現れた場合には、刺激の強さや刺激する場所などを調整し、症状の改善を保ちながら副作用の軽減を目指します。
ただし、副作用を抑えるために刺激を弱めると、症状への効果が小さくなる場合もあります。
近年では、電気刺激の方向を調整できる「ディレクショナルリード」も使用され、より細かな刺激調整が可能になっています。
認知機能・気分・精神面への影響
DBSの治療後には、認知機能や、気分・行動に変化がみられることがあります。これらには、電気刺激だけでなく、手術や薬剤の調整などが関係する場合があります。
特に手術後の比較的早い時期には、気分が高揚する、活動性が高くなるなどの軽躁状態がみられることがあります。多くは一過性ですが、刺激条件や薬剤の調整が必要になる場合があります。
また、気分の落ち込み、不安、意欲の変化など、精神面の変化についても注意深く経過をみていく必要があります。
特に、術後の急激な薬剤の減量が気分や意欲の変化に関係することがあるため、症状を確認しながら慎重に薬を調整します。
当院では、認知機能や精神状態についても手術前に評価し、手術後も必要に応じて確認しながら治療を行います。
リスクと期待できる効果を
一人ひとり評価します
DBSのリスクと期待できる効果は、患者さんによって異なります。年齢、全身状態、脳の画像所見、認知機能、精神状態、服用している薬剤などを踏まえ、一人ひとりにとって、期待できるメリットがリスクを上回ると考えられるかを検討します。
当院では、手術前に必要な検査と評価を行い、期待できる効果と考えられるリスクについて患者さんやご家族と十分に相談したうえで、治療方針を決定します。
術後の刺激調整(プログラミング)と薬剤調整
DBSは「手術をしたら終わり」の
治療ではありません
手術は、DBSという新しい治療を始めるための第一歩です。
DBSでは、手術によって電極と刺激装置を植え込んだ後も、患者さん一人ひとりの症状に合わせた治療の調整が必要です。
手術後に電気刺激を細かく調整する「プログラミング」と、抗パーキンソン病薬の調整を行い、治療効果を引き出すことを目指します。
「正確な手術」「適切な刺激調整」「適切な薬剤調整」の3つを組み合わせて治療を進めることが重要です。
手術直後から症状が良くなることが
あります
手術後は、患者さんの状態を確認しながら、比較的早い時期から食事や歩行などを再開します。
手術直後は、基本的に術前と同様の抗パーキンソン病薬を服用していただきますが、刺激を開始する前から「身体が動きやすくなった」「薬の効きが良くなった」と感じる患者さんもいます。
微小破壊効果(microlesion effect)
DBSの電極を脳内に挿入したことに伴って、電極周囲の神経活動に変化が生じ、電気刺激を行っていなくても、一時的に症状が改善することがあります。これは「微小破壊効果(microlesion effect)」と呼ばれる現象です。
この効果は時間の経過とともに弱くなるため、手術直後の症状だけでDBSの最終的な効果を判断することはできません。
刺激は少しずつ調整していきます
当院では、手術後の状態を確認したうえで、術後数日から電気刺激を開始します。
患者さんの症状や副作用を確認しながら、留置した電極のどの部分から刺激するか、刺激をどのくらい強くするかなどを少しずつ調整します。この作業を「DBSプログラミング」と呼びます。
動作緩慢、筋肉のこわばり、ふるえ、オフ症状などがどのように変化するかを確認するとともに、言葉の話しにくさ(構音障害)、しびれ、筋肉のつっぱりなどの副作用が生じないかを評価します。
できるだけ少ない副作用で、より高い治療効果が得られる、一人ひとりに適した刺激条件を探していきます。
DBSと薬を組み合わせて、
より安定した状態を目指します
刺激を開始した後は、その効果を確認しながら、抗パーキンソン病薬も調整します。
DBSを導入したからといって、すべての薬を中止することが治療の目標ではありません。多くの場合、DBSと薬物療法をうまく組み合わせることで、一日の症状をより安定させることを目指します。
多くの患者さんではDBSの導入によって薬を減量できますが、必要な薬の種類や量は患者さんごとに異なります。
-
薬を減らしすぎると
動作緩慢などが悪化することがあります。
-
刺激を強くしすぎると
刺激による副作用が現れることがあります。
「刺激をどのように調整するか」「薬をどの種類・量で続けるか」の両方を考えることが重要です。
退院までの調整
当院では、手術後に刺激と薬の初期調整を行い、症状や全身状態、歩行などの日常生活動作を確認したうえで、退院していただきます。初期調整には時間が必要なため、手術を含めた入院期間は、通常3週間程度を予定しています。
ただし、手術後の回復や症状、刺激・薬剤調整の状況によって前後します。
退院後もプログラミングを続けます
DBSの刺激条件は、一度決めたらそのまま一生使い続けるものではありません。
術後の微小破壊効果が弱くなったり、薬の量が変わったりすることで、適した刺激条件も変わる場合があります。長期的にはパーキンソン病そのものの症状も変化していきます。
そのため、退院後も定期的に外来を受診していただき、症状を確認しながら刺激条件と薬剤を調整していきます。
| 入院中 | 通常3週間程度刺激と薬の初期調整を行い、日常生活動作を確認して退院します。 |
|---|---|
| 症状が安定するまでの 術後数か月間 |
通常1か月に1回程度症状と副作用を確認し、必要に応じて刺激条件や薬を調整します。 |
| 症状が安定してから | 通常3か月に1回程度症状、刺激条件、薬に加え、DBS装置やバッテリーの状態などを確認します。 |
受診の間隔は、患者さんの状態や調整の必要性に応じて変更します。
DBSは「育てていく治療」です
患者さんの症状は一人ひとり異なり、また同じ患者さんでも時間とともに変化していきます。
その変化に合わせて、刺激条件と薬を調整し、その時々でより良い状態を目指していくことが重要です。
その意味で私たちは、
「患者さんと医療者が一緒に長期的に育てていく治療」と考えています。
DBS手術後の生活
DBS装置を植え込んだ後も、
日常生活を送ることができます
「DBSを入れると、日常生活にいろいろな制限があるのではないか」と心配される患者さんも少なくありません。
電極、導線、刺激装置はすべて体内に埋め込まれているため、手術後の創が十分に治れば、基本的には通常の日常生活を送ることができます。
入浴やシャワーなども通常通り行うことができます。携帯電話や一般的な家庭用電化製品は、多くの場合、通常の使用方法で利用できます。ただし、強い磁石など、装置に影響するものもあるため、使用機器の説明書に従ってください。
仕事や飛行機を利用した国内・海外旅行も可能ですが、再開する時期や活動の範囲は、症状、仕事内容、装置の注意事項などを踏まえてDBSの担当医と相談しましょう。
日常生活のこと
運動やスポーツはできますか?
傷が十分に治り、症状が安定したら、体調に合わせた運動は健康維持のためにも大切です。
ウォーキングなどから始め、ジョギングやゴルフなども、症状や転倒リスクを踏まえてDBSの担当医と相談しながら行うことができます。
頭部や前胸部の刺激装置に強い衝撃が加わる運動や、身体同士が激しく接触する運動には注意が必要です。
特に、サッカー、ラグビー、格闘技などの接触を伴うスポーツについては、電極や接続部、刺激装置への影響が懸念されるため、原則として避けるようお願いしています。
どの程度の運動が可能かは、DBS装置だけでなく、パーキンソン病の症状や転倒リスクなどによっても異なりますので、DBSの担当医に相談してみてください。
車の運転について
DBS装置を植え込んでいることだけで、直ちに運転ができなくなるわけではありません。
ただし、運転の可否は、パーキンソン病の症状、運動機能、認知機能、眠気を生じる薬の使用など、さまざまな要因によって判断する必要があります。服用している薬によっては、眠気や突発的な眠り込みの危険から、運転を避けるよう指示される場合があります。薬についての指示にも従ってください。
手術直後や刺激・薬剤の調整中には症状が変化する可能性もあります。運転を再開する時期や可否については、自己判断せず、DBSの担当医と相談してください。
飛行機や海外旅行はできますか?
DBS治療後も、体調が安定していれば、飛行機を利用した国内・海外旅行は可能です。
空港の保安検査
空港の保安検査では、金属探知機が装置に反応したり、検査機器が刺激の状態に影響したりする可能性があります。検査を受ける前に、DBS装置を植え込んでいることを伝え、患者手帳などを提示してください。検査方法は、保安検査担当者の指示と、使用しているDBS装置の説明書に従ってください。
旅行の際には、万一の体調変化や装置のトラブルに備えて、使用しているDBS装置のメーカーや機種、刺激条件などがわかる情報を携帯しておくと安心です。
検査や治療を受けるとき
MRI検査を受けるときには注意が必要です
DBS装置には、一定の条件を満たした場合にMRI検査を受けられる「条件付きMRI対応」の機種があります。一方、MRI検査を受けられない機種や構成もあります。
「DBSが入っていても、どのような条件でもMRIを撮影できる」という意味ではありません。
検査前には、装置の種類、植え込まれている部品、撮影する部位、MRI装置の条件などを確認します。機種によっては、撮影前後にDBSの設定変更や確認が必要になります。
MRI検査が必要になった場合は、必ず検査を行う医療機関にDBS装置が入っていることを伝え、DBSの担当医にも相談してください。
施設によっては、使用しているDBS装置に対応したMRI検査を実施できない場合もあります。
レントゲンやCT検査は?
一般的なレントゲン撮影やCT検査は、通常DBSの設定を変更することなく受けられる場合が多いです。ただし、装置の種類や撮影条件によって、注意点が異なります。
何らかの検査や治療を受ける際には、医療スタッフにDBSが入っていることを伝え、必要な対応を確認してください。
心電図などの検査について
DBSから発生する電気信号が、心電図などの検査波形にノイズとして記録されることがあります。
検査に支障がある場合には、一時的に刺激を停止することで対応できる場合もあります。ただし、DBSを停止するとパーキンソン病の症状が悪化することがあるため、医療スタッフの指示に従ってください。
他の手術や治療を受けるときには
他の病気で手術や処置を受ける場合も、事前に「DBS装置が入っています」とその検査・治療を担当する医師や医療スタッフへ伝えてください。
電気メスなど、一部の医療機器や治療はDBS装置に影響を及ぼす可能性があります。
必要な対応は、使用する医療機器やDBS装置の種類によって異なります。検査・治療を受ける前に装置について伝え、必要に応じてDBSの担当医や装置メーカーに確認してもらってください。
DBSのバッテリーについて
DBSの刺激装置には、大きく分けて「非充電式」と「充電式」の2種類があります。
それぞれに長所と注意点があり、患者さんの年齢、生活スタイル、必要な刺激条件などを考慮して選択します。
-
非充電式の刺激装置
非充電式は、患者さん自身が日常的に充電する必要がないことがメリットです。
一方、内蔵されている電池には寿命があるため、電池がなくなる前に刺激装置を交換する必要があります。
電池の寿命は、装置の種類や刺激条件などによって異なります。定期的な外来診察で残量を確認し、余裕をもって交換時期を計画します。
交換の際には、通常、脳内の電極を入れ替える必要はありません。前胸部に植え込まれている刺激装置を交換する手術を行います。
-
充電式の刺激装置
充電式は、専用の充電器を使って体外から定期的に充電することで、長期間使用できる装置です。機種によっては10年以上の使用を想定して設計されており、電池の消耗に伴う交換手術の回数を減らせることがメリットです。
一方で、患者さん自身、またはご家族などによる継続的な充電が必要です。必要な充電頻度や充電時間は、使用する機種や刺激条件によって異なります。
充電は、専用の充電器を前胸部に植え込まれた刺激装置の上に合わせて行います。専用のホルダーなどを使用することで、充電器を適切な位置に固定することができます。
電池の残量と装置の状態を確認しましょう
非充電式・充電式のどちらも、定期的な外来診察で装置の状態を確認します。
患者用機器で残量や通知を確認する方法についても、医療スタッフから説明を受けてください。
電池残量の警告が出た、充電ができない、急に症状が悪化したなどの場合は、DBSを担当している医療機関に連絡してください。
「DBSが入っている」ことを
医療者に伝えることが大切です
病院や歯科医院などで検査や治療を受ける際には、
「私はDBS(脳深部刺激療法)の装置が入っています」
と必ず事前に医療スタッフに伝えるようにしてください。
外出や旅行の際には、使用しているDBS装置がわかる患者手帳やデバイスの登録カードを携帯しておくことをおすすめします。
対応が分からない場合は、自己判断せず、DBSを担当している医療スタッフに相談してください。
DBSのデバイスと最新技術
DBS装置と刺激調整の技術は
進歩しています
DBSでは、手術方法だけでなく、体内に植え込む電極(リード)や刺激装置、刺激を調整するプログラミング技術も進歩しています。
現在、日本では、メドトロニック社、ボストン・サイエンティフィック社、アボット社のDBSシステムが使用されています。
脳の特定の部位を電気刺激するという基本的な仕組みは共通していますが、刺激方法、バッテリー、装置の大きさ、患者さんが使用するコントローラー、医療者が使用するプログラミングシステム、さらに利用できる先進的な機能などには、それぞれ特徴があります。
DBSが適しているかを検討するとともに、患者さんの症状や生活に合ったDBSシステムを選択できる時代になっています。
患者さんにとって重要なデバイスの違い
装置を選ぶ際には、治療性能だけでなく、手術後に長期間使い続けるうえでの扱いやすさも考慮します。
主な選択のポイントには、次のようなものがあります。
- 刺激装置の大きさや厚さ
- 充電式か非充電式(電池式)か
- バッテリーの寿命
- 充電が必要な場合の頻度や時間
- 充電器や患者用コントローラーの
操作方法や使いやすさ - MRI検査への対応条件
- メーカーによる患者サポート体制
特に「充電式」と「非充電式」のどちらを選択するかは、DBS治療を続けていくうえで大切です。
-
充電式
患者さん自身やご家族などによる定期的な充電が必要ですが、刺激装置を長期間使用できるため、電池交換手術の回数を減らせる可能性があります。
-
非充電式
定期的な充電が必要ないため、充電操作に負担を感じる患者さんにとってメリットがあります。ただし、電池が切れる前に刺激装置を交換する必要があります。
どちらが優れているというものではなく、年齢、生活スタイル、充電操作が無理なくできるか、必要となる刺激条件などを考えて選択することが重要です。
医療者にとってもデバイスごとに
違いがあります
医療者が刺激を調整する「プログラミング」の方法にも、メーカーや機種によってさまざまな特徴があります。
例えば、次のような点に違いがあります。
- 刺激する場所をどの程度細かく選択できるか
- 電流をどのように分配できるか
- 刺激の方向をどの程度コントロールできるか
- プログラミング画面の操作性
- 患者さんのMRI画像を利用した刺激位置の
可視化 - 脳内の神経活動を記録するセンシング機能
- 脳活動に応じて、刺激の出力を自動調整するadaptive DBS(aDBS)
利用できる機能は、メーカーや機種、電極などの組み合わせによって異なります。
最新のDBS技術について
DBS(脳深部刺激療法)では、電極や刺激装置だけでなく、刺激を調整するプログラミング技術も進歩しています。
ここでは、現在のDBS治療を支える代表的な技術と、それぞれの特徴を紹介します。
デュアルチャンネルIPG―1台の刺激装置で左右の脳を刺激
パーキンソン病に対するDBSでは、左右両側の脳に刺激電極を留置することが多くあります。
シングルチャンネル型の刺激装置では、左右それぞれの電極に対して1台ずつ、合計2台の刺激装置を植え込む必要がありました。現在では、1台で左右2本の電極を制御できる「デュアルチャンネルIPG(刺激発生装置)」が広く使用されています。
これにより、両側DBSを行う場合でも、通常は前胸部に植え込む刺激装置を1台にできます。左右それぞれの症状に合わせて、刺激条件を個別に調整することも可能です。
現在では普及している機能ですが、植え込む装置の数を減らせるようになったことは、DBS装置の重要な進歩のひとつです。
条件付きMRI対応 ― DBS手術後もMRI検査が可能に
初期のDBS装置では、MRIによる発熱や装置への影響などが懸念され、MRI検査には大きな制限がありました。
現在は、一定の条件を満たせばMRI検査を受けられる「条件付きMRI対応」が一般的になっています。手術後も長期にわたって生活するなかで、他の病気の診断などにMRIが必要になる可能性があるため、装置を選ぶ際の重要なポイントです。
ただし、「MRI対応DBS=どのようなMRIでも自由に撮影できる」という意味ではありません。
刺激装置や電極などの種類、撮影部位、MRI装置の条件によって、安全に撮影するための条件が定められています。また、機種によっては撮影前後にDBSの状態確認や設定変更が必要になります。
MRI検査を受ける際には、必ずDBSを担当している医師とMRIを行う医療機関に相談してください。
ディレクショナルリード ― 刺激する「方向」を選択する
従来のDBS電極は、電極の周囲へ電気刺激を送る構造です。
一方、「ディレクショナルリード(Directional Lead)」では、一部の電極が円周方向に分割されており、刺激する方向を選択できます。

DBSの標的となる視床下核は非常に小さく、その周囲にはさまざまな働きをもつ神経線維があります。刺激が周囲に及ぶと、言葉の話しにくさ(構音障害)、しびれ、筋肉のつっぱりなどの副作用が現れる場合があります。
ディレクショナルリードでは、副作用を起こしやすい方向への刺激をできるだけ抑え、効果が期待できる方向へ刺激を集中させることができます。
従来から行ってきた刺激の強さや、留置した電極のどの部分から刺激するかという調整に加え、「どの方向へ刺激を向けるか」も新たに選択が可能になったのです。ただし、効果や副作用を確認しながら、一人ひとりに適した設定を探す必要があります。
adaptive DBS(アダプティブDBS)― 脳の状態に応じて刺激を自動調整
従来のDBSでは、医師が設定した刺激条件で、基本的に一定の強さの刺激を持続的に行います。
これに対し、adaptive DBS(aDBS:適応型脳深部刺激療法)は、記録した脳活動の変化に応じて、刺激の強さを自動調整する技術です。

メドトロニック社の対応機種では、脳内の電極から「LFP(局所フィールド電位)」と呼ばれる脳活動を記録します。LFPに含まれる特定の脳活動は、動作の遅さや筋肉のこわばりなどの運動症状と関連することが示されています。
adaptive DBSでは、この脳活動を継続的に測定し、その変化に応じて、あらかじめ医師が設定した範囲内で刺激の強さを自動的に調整します。
ただし、利用できる脳活動と症状との関係には個人差があり、すべての患者さんで同じように利用できるわけではありません。患者さんごとの脳活動と症状との関係を確認したうえで、適切に使用することが重要です。
DBSでは、一定の刺激を続ける方法に加え、脳活動の変化に応じて刺激の強さを自動調整する方法も選択できるようになっています。
画像ガイドプログラミング ―「どこを刺激しているのか」を見ながら調整
ディレクショナルリードの登場によって、刺激する方向など、調整できる項目が増える一方で、最適な設定を探すプログラミングは従来より複雑になりました。
実際に、さまざまな電極からさまざまな方向に刺激を行い、そのたびに症状の改善と副作用の有無を確認しながら、適切な刺激部位と刺激強度を探していく方法が中心だったため、プログラミングには経験と時間が必要でした。
この問題を解決する新しい技術のひとつが「画像ガイドプログラミング」です。
ボストン・サイエンティフィック社の
「STIMVIEW XT」では、MRIと術後のCTなどの画像を組み合わせ、患者さんの脳構造と、実際に留置されたDBS電極の位置・方向との関係を三次元画像として可視化することができます。
また、設定した刺激によって、どの範囲に刺激が及ぶと予測されるかを、画面上に表示することができます。
医師は、次の情報を参考にしながら刺激条件を調整します。
- 電極がどこに
留置されているか - どの方向へ刺激を
向けているか - 刺激がどの範囲に
及ぶと予測されるか
画像ガイドプログラミングは、従来の診察による症状や副作用の評価に画像情報を加えることで、より効率的に患者さん一人ひとりの脳構造に合わせた刺激調整を目指す技術です。
画像は調整を助ける情報であり、それだけで最適な刺激条件が決まるわけではありません。実際の症状の改善と副作用を確認しながら、刺激条件を決定します。
- 電極がどこに
遠隔プログラミング ― 遠く離れた場所から刺激条件を調整
DBSでは、手術後も定期的に外来を受診し、患者さんの症状に合わせて刺激条件を調整する必要があります。医療機関が遠い患者さんにとって、通院が負担になる場合があります。
こうした問題を解決する技術として登場したのがアボット社のDBSに搭載された「遠隔プログラミング」です。アボット社の対応するDBSシステムでは、患者さんと医療者をインターネットでつなぎ、ビデオ通話で状態を確認しながら、刺激条件を遠隔で調整できます。

これにより、遠方に住んでいる患者さんが、長距離の移動をせずに刺激調整を受けられる場合があります。
もちろん、すべての診察を遠隔で行えるわけではありません。対面での診察や検査が必要な場合もあります。また、対応する装置、医療機関、通信環境などにも条件があります。
遠隔プログラミングは、必要な対面診療と組み合わせながら、通院負担の軽減を目指す技術です。
一人ひとりに合わせた調整を支える技術
DBSの技術は、単に刺激装置を小型化したり、バッテリーを長寿命化したりするだけではなく、大きく進歩しています。
- ディレクショナルリード刺激する方向を選ぶ
- adaptive DBS脳の状態を測定して刺激を変化させる
- 画像ガイドプログラミング脳と電極の位置関係を見ながら調整する
- 遠隔プログラミング離れた場所から治療を行う
こうした技術に共通しているのは、DBSをより細かく、より患者さん一人ひとりに合わせて調整していこうという考え方です。
DBSは、患者さん一人ひとりの脳の構造、脳活動、症状、そして生活に合わせて最適化していく治療へと進歩しています。
利用できる技術は、機種や医療機関の対応状況などによって異なります。気になることがあれば、DBSの担当医にご相談ください。