パーキンソン病とは
パーキンソン病治療の歴史
-
1817年
病気の発見
パーキンソン病の報告
イギリスの医師ジェームズ・パーキンソンが、手足のふるえや動作・歩行の障害を特徴とする患者さんについて「振戦麻痺」として報告し、彼の名前にちなんで「パーキンソン病」と呼ばれるようになりました。当時は原因がわかっておらず、有効な治療法もほとんどありませんでした。
-
1950年代頃
外科治療
外科治療の発展
現在の薬物療法が確立される以前から、脳神経外科による治療が試みられていました。脳の深部にある「視床」や「淡蒼球」の一部に小さな凝固巣を作る「視床破壊術」や「淡蒼球破壊術」などが開発され、日本でも行われるようになりました。これらの手術で、ふるえなどの症状が大きく改善する患者さんがいることが明らかになりました。
-
1960年代〜
薬物療法
薬物療法の発展
脳内の「ドパミン」が不足していることが明らかになり、その不足を補うためにL-ドパ(レボドパ)による治療が発展しました。L-ドパは運動症状を大きく改善する画期的な薬であり、その登場によってパーキンソン病治療の中心は外科治療から薬物療法へと移っていきました。その後もドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬など、さまざまな薬が開発され、現在の薬物療法へと発展しています。
-
1980年代後半〜
1990年代外科治療・DBS
外科治療への再注目とDBSの開発
長年薬物療法を続けていると、薬の効いている時間が短くなる「ウェアリングオフ」や、薬が効いているときに身体が自分の意思とは関係なく動いてしまう「ジスキネジア」などの運動合併症により、症状のコントロールが難しい患者さんがいることもわかってきました。
こうした背景から、外科治療が再び注目され、脳の特定の部位を電気的に刺激して症状を改善させる「脳深部刺激療法(DBS)」が開発されました。従来の破壊術とは異なり、脳を破壊せずに症状を改善できることが特徴で、症状に合わせて刺激を調整することも可能です。
-
2000年4月
DBS
日本でDBSが保険適用
日本では2000年にDBSが保険適用となりました。薬物療法だけでは十分な症状のコントロールが難しくなった患者さんに対する重要な治療選択肢のひとつとなっています。
パーキンソン病では脳に
何が起こっているのか
パーキンソン病は、脳の「中脳黒質」にあるドパミンを作る神経細胞が徐々に減少することによって起こる、進行性の神経変性疾患です。その根本的な原因は、現在もすべてが明らかになっているわけではありませんが、身体の動きに障害が生じる仕組みについては、多くのことがわかってきています。
正常な脳では
ドパミンが線条体に届き
運動に関わる神経回路の働きを調整
正常な脳では、中脳黒質で作られたドパミンが神経線維を通って「線条体」に送られます。線条体は「大脳基底核」という神経ネットワークの重要な一部で、私たちが身体を滑らかに動かしたり、目的に応じて適切な運動を行ったりするために重要な役割を果たしています。
パーキンソン病では
神経細胞が減り、ドパミンが不足
運動に関わる神経回路の
バランスが崩れる
パーキンソン病では、このドパミンが不足することで、運動に関係する神経回路のバランスが崩れ、動作が遅くなる、筋肉がこわばる、手足がふるえるなど、さまざまな運動症状が現れます。
※運動症状に関わる仕組みを簡略化した模式図です。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病ではさまざまな症状がみられますが、大きく「運動症状」と「非運動症状」に分けることができます。症状の種類や程度、進行の速さには個人差があります。
主な運動症状
代表的な運動症状には、次のようなものがあります。
-
動作緩慢
どうさかんまん
動作が遅くなったり、動き始めるまでに時間がかかったりします。ボタンを留める、着替える、寝返りを打つ、ベッドから起き上がるといった日常生活の動作にも時間がかかるようになります。
-
振戦
しんせん
手や足などにふるえがみられます。特に、力を抜いてじっとしているときにみられる「安静時振戦」が特徴的です。
-
筋固縮
きんこしゅく
筋肉がこわばり、手足を他人が動かしたときに抵抗を感じる症状です。患者さん自身は「身体が硬い」「肩や手足がこる」と感じることもあります。
-
姿勢保持障害
しせいほじしょうがい
病気が進行すると、身体のバランスを保つ能力が低下し、転倒しやすくなることがあります。一般的には発症初期よりも、ある程度病気が進行してから問題となることが多い症状です。
このほかにも、歩幅が小さくなる「小刻み歩行」、最初の一歩がなかなか出ない「すくみ足」、歩いているうちに徐々にスピードが速くなってしまう「突進現象」など、特徴的な歩行障害がみられます。
小刻み歩行

すくみ足

突進現象

また、表情が乏しくなる「仮面様顔貌」、声が小さくなる「小声症」、文字を書いているうちに字が小さくなる「小字症」なども特徴的な症状です。病気が進行すると、姿勢の異常や飲み込みにくさ(嚥下障害)などが問題となることもあります。
仮面様顔貌

小声症

小字症

非運動症状
パーキンソン病では、身体の動き以外にもさまざまな症状が現れることがあります。
代表的なものとして、便秘、頻尿、発汗異常、立ちくらみなどの自律神経症状があります。また、嗅覚の低下、睡眠障害、夜間に大きな寝言を言ったり手足を動かしたりする症状、気分の落ち込みや意欲低下などがみられることもあります。
さらに、病気の経過とともに認知機能が低下する患者さんもいます。
自律神経症状

嗅覚の低下

睡眠障害

気分の落ち込み・
意欲低下
認知機能の低下

こうした非運動症状の中には、ふるえや動作緩慢などの典型的な運動症状が現れるよりも前から認められるものもあります。
パーキンソン病の診断
パーキンソン病の診断で最も重要なのは、患者さんからこれまでの症状や経過を詳しくお聞きし、神経学的診察を行うことです。特徴的な運動症状があるか、左右差があるか、症状がどのように進行してきたか、L-ドパなどのパーキンソン病治療薬によって症状が改善するか、といった点を総合的に評価します。
必要に応じて、頭部MRIやドパミントランスポーター(DAT)イメージングなどの画像検査が診断の補助として用いられます。また、日本ではMIBG心筋シンチグラフィが鑑別診断の参考として用いられることもあります。
画像検査だけでパーキンソン病と診断するのではなく、症状や診察所見を中心として、検査結果を組み合わせて総合的に診断します。
パーキンソン病に似た症状を示す病気は、「パーキンソン症候群」と総称されます。代表的なものに、多系統萎縮症(MSA)や進行性核上性麻痺(PSP)などがあります。発症初期にはパーキンソン病との区別が難しい場合もあり、症状の経過を注意深く観察することで、後になって診断がより明確になることもあります。
パーキンソン病の薬物療法と
長期治療における問題点
パーキンソン病治療の基本となるのは薬物療法です。なかでもL-ドパ(レボドパ)は、運動症状に対して最も効果の高い薬剤のひとつであり、現在も薬物治療の中心となっています。
L-ドパによって、動作の遅さや手足のこわばり、歩行などの改善が期待できます。また、運動症状が明らかに改善すること(L-ドパ反応性)は、パーキンソン病の診断でも重要な所見のひとつです。
薬が安定して効く時期
「ハネムーン期」
発症から比較的早い時期には、L-ドパなどの薬の効果が次の服薬まで持続し、一日を通して症状が比較的安定することがあります。
このように薬物療法によって症状を比較的安定してコントロールできる時期は、一般に「ハネムーン期」と呼ばれます。
薬の効き方や、この時期の長さには個人差があります。
薬の効果が短くなる
「ウェアリングオフ」
病気の進行とともに、1回の服薬による効果の持続時間が短くなることがあります。次の服薬時間まで薬の効果が持続せず、症状が再び現れてくる現象を「ウェアリングオフ」と呼びます。
「以前は次の薬を飲むまで普通に動けていたのに、最近は次の服薬時間が近づくと身体が動きにくくなる」といった状態
ウェアリングオフが現れるようになると、L-ドパの1回量や服用回数を調整したり、作用時間を延ばす薬などを併用したりすることで、できるだけ安定した状態を保てるように治療を工夫します。
この段階では、患者さん一人ひとりの症状や生活パターンに合わせた、きめ細かな薬剤調整が非常に重要となります。
「オン」と「オフ」による
一日の症状の変動
薬が効いて身体を比較的動かしやすい状態を「オン(ON)」、薬の効果が弱まり、動作緩慢や筋肉のこわばり、歩行障害などが現れる状態を「オフ(OFF)」と呼びます。
オン(ON)
薬が効いて身体を比較的動かしやすい状態
オフ(OFF)
薬の効果が弱まり、
動作緩慢や筋肉のこわばり、
歩行障害などが現れる状態
「朝は動けないけれど、薬を飲むと動けるようになる」「薬が切れると、突然歩けなくなる」など、薬によって症状は改善しても、一日を通して安定した状態を保つことが難しくなる場合があります。
身体が意思とは関係なく動く
「ジスキネジア」
治療を続ける中で、自分の意思とは関係なく、頭や手足、体幹などがくねくねと不規則に動く「ジスキネジア」と呼ばれる不随意運動が現れることもあります。
多くの場合、L-ドパの効果が強く現れている時間帯にみられます。薬が効きすぎている症状とも考えられ、L-ドパの副作用とも言えます。
ジスキネジアは、単純に「薬の副作用」というだけではなく、パーキンソン病の進行による脳内の変化と、長期間にわたるドパミン補充療法などが関係して生じる「運動合併症」のひとつと考えられています。
薬を増やしても、
減らしても調整が難しい時期
L-ドパを増やすと「オフ」の時間を短くできる可能性がある一方、ジスキネジアが強くなることがあります。逆に、減らすとジスキネジアが軽くなる場合もありますが、動作緩慢や筋肉のこわばりなどの「オフ症状」が強くなることがあります。
このように、「薬が足りないと動けない。しかし、薬を増やすと今度は身体が勝手に動いてしまう」という、薬物療法だけでは一日の症状を十分にコントロールすることが難しい状態になることがあります。
薬物療法だけでは
十分なコントロールが難しくなったら
このような運動合併症が現れ、適切な薬剤調整を行っても日常生活への影響が大きくなってきた場合には、薬物療法に加えて「デバイス補助療法(device-aided therapy)」を検討することがあります。
脳深部刺激療法(DBS)は、その代表的な治療法のひとつです。
DBSが適しているかどうかは、年齢、症状、L-ドパに対する反応、認知機能、全身状態などを含めて総合的に判断します。