DBSとは
DBS(脳深部刺激療法)とは
DBS(Deep Brain Stimulation:脳深部刺激療法)は、脳の深部にある特定の部位を電気刺激することで、パーキンソン病によって乱れた神経回路の働きを調整し、症状を改善させる治療法です。
実際の治療では、脳内の治療標的となる部位に細い刺激電極(リード)が留置され、前胸部などの皮下に植え込んだ刺激装置(刺激発生装置)から脳へ持続的に電気刺激を送ります。
心臓のペースメーカーに似た仕組みであることから、「脳のペースメーカー」と表現されることもあります。
パーキンソン病に対するDBSでは、主に「視床下核(STN)」や「淡蒼球内節(GPi)」が刺激の標的となります。どの部位を刺激するかは、症状、年齢、薬の服用状況などを考慮して決定します。
刺激電極や刺激装置を体内に植え込む手術が必要なため、脳神経外科医と、パーキンソン病の診療を専門とする脳神経内科医をはじめとした多職種の医療スタッフが連携して治療を行います。
DBSの特徴は、手術後も患者さんの症状に合わせて刺激条件を調整できることです。
脳の一部に凝固巣を作る「破壊術」と異なり、DBSは標的部位を凝固する代わりに、電気刺激によって治療を行います。
専用の機器を用いて体外から刺激条件を変更できるため、症状や副作用を確認しながら、その患者さんに適した刺激条件を探していくことができます。両側に電極を留置した場合は、左右それぞれの症状に合わせて刺激条件を調整することもできます。
DBSの効果
DBSは、薬物療法と同様に、パーキンソン病そのものを治したり、病気の進行を止めたりする治療ではありません。
しかし、適切な患者さんに行うことで、運動症状の改善や、日常生活の質の向上が期待できます。
DBSの効果や薬を減らせる程度には個人差があります。
DBSの効果を理解するうえでは、「L-ドパがよく効いているときの状態を、できるだけ長く安定して維持することを目指す治療」と考えると分かりやすいでしょう。
薬とDBSの違い
飲み薬(L-ドパ)
飲み薬のL-ドパは、消化管から吸収され、血液を介して脳へ運ばれるため、服用してから効果が現れるまでに時間がかかります。
食事の内容や消化管の状態などによって薬の吸収が影響を受け、同じ量の薬を同じ時間に服用していても、効き始める時間や効果の程度が変わることがあります。
こうした吸収の影響に加え、病気の進行に伴う変化も関係し、「薬を飲んでもなかなか効かない」「薬が効いている時間が短い」「薬が効いているときと切れているときの差が大きい」といった問題が生じる場合があります。
DBS
DBSは、植え込んだ刺激装置から脳の特定の部位へ継続的に電気刺激を送ります。電気刺激そのものは、食事や消化管からの薬の吸収に左右されません。
このため、薬物療法だけではコントロールすることが難しくなった「オン」と「オフ」の変動を小さくし、動きやすい時間を長くすることが期待できます。
夜間も刺激を継続できるため、患者さんによっては、寝返りや起き上がりなど、夜間の運動症状の改善が期待できます。
「オフ」の時間を減らし、
良い状態を長くする
DBSによって特に改善が期待されるのは、薬が切れたときに現れる「オフ」の運動症状です。
例えば、薬が効いている「オン」のときには歩けても、薬が切れると身体が固まって動きにくくなる場合、DBSによって「オフ」の状態を改善し、一日の中で動きやすく過ごせる時間を増やすことが期待できます。
また、運動症状の改善に伴い、抗パーキンソン病薬を減量できる場合があります。特に、視床下核(STN)を標的としたDBSでは、L-ドパなどの減量が期待できます。薬剤の減量や刺激条件の調整によって、ジスキネジアが軽減することもあります。
DBSの目的は、単純に薬をやめることではありません。
つらい「オフ」の時間や症状の変動を減らし、
より安定して過ごせる時間を増やすことが重要な治療目標です。
臨床研究では、一定の適応条件を満たした患者さんにおいて、薬物療法のみの場合と比較し、DBSと薬物療法を併用することで、運動症状や運動合併症、生活の質の改善が報告されています。効果や薬を減らせる程度には個人差があります。
DBSで改善が期待できる症状、
改善しにくい症状
DBSは有効な治療となりえますが、パーキンソン病のすべての症状を改善できるわけではありません。
手術前に「どの症状が良くなる可能性が高く、どの症状は改善しにくいのか」を十分に理解しておくことが重要です。
改善が期待できる症状
- 無動、動作緩慢
- 筋固縮
- 症状の日内変動
- 薬が切れたときの歩きにくさ
- ジスキネジア
- 振戦(ふるえ)
基本的には、L-ドパを服用したときに改善する運動症状は、DBSによっても改善が期待できます。
また、オンとオフの変動を小さくし、ジスキネジアを軽減することも期待できます。
ふるえ(振戦)は、薬で十分に改善しない場合でも、DBSによって改善する場合があります。そのため、薬ではコントロールが難しい強い振戦も、DBSを検討する重要な症状のひとつです。
改善しにくい症状
- 姿勢反射障害(バランス障害)
- 薬が効いていても起こるすくみ足
- 発声障害
- 言語障害
- 嚥下障害
- 自律神経症状
- 精神、認知症状
L-ドパを服用しても改善しにくい症状は、DBSでも改善しにくい傾向があります。
特に、病気の進行に伴ってみられる歩行・姿勢・発声・嚥下などの「体軸症状」のうち、L-ドパで改善しにくいものは、DBSでも改善が難しい傾向があります。
「一番調子の良いとき」が
DBS後の目標を考えるヒント
DBS後の目標を考えるうえでは、「薬が最もよく効いているときに、どのくらい動けているか」が重要な目安になります。
例えば、薬が切れると歩けなくても、よく効いている時間には一人で歩き、身の回りのことができる場合、DBSによって、その動きやすい状態をより長く保つことが期待できます。
一方、薬が十分に効いている状態でも歩行が難しい場合、その歩行障害をDBSだけで大きく改善することは、一般的には困難です。
「今までできなかったことを何でもできるようにする治療」ではなく、
「薬がよく効いているときの良い状態を、より長く安定して保つことを
目指す治療」と考えると、DBSの効果を理解しやすいでしょう。
もちろん、実際に期待できる効果は、症状や病気の経過によって異なります。手術前には、DBSを専門とする医師による詳しい診察やL-ドパへの反応の評価などを行い、一人ひとりの症状について、どの程度の改善が期待できるかを検討します。